2016 八丈島紀行 ひょいっと(2)ウルクラフト 蜂須賀江理子さん

前のアップから相当間が開いてしまいました。

ちょうど、前回のAMONGの記事を書いたすぐ後に、自分のライフワークの仕事で、かなり力を入れていた文章について、もう身もフタもないほど徹底的にボロカス言われたのみならず、私の生き方まで否定されるという出来事があり、しばらくの間、文章が書けなくなっていました。

 

私は文章を書いて食っているわけですが、仕事の文章さえ、2度3度書き直しても「本当にこれでいんだっけ」と自信が持てなくなる始末。

また、こういうときはなぜか仕事が途絶えるものなんですね。

  

やってきたこと全てに自信がなくなり、一瞬前向きになってもまた沈み、浮き上がれない水の中でもがいて溺れてる感じでした。

気持ちを立て直せたのは、5月の終わりに小笠原に行ってからです。取材でもあったのですが、自費取材だし、取材以外の時間、島の中では自分を見つめ直して問いかけ直す作業に終始しました。

 

そこでやっぱり自分は自分がやれることしかできないなと思い直したわけです。

ただ、今の時期にがつんと手痛い指摘をもらったのは、自分の手の内をもう一回見直せというお告げなんだと解釈し、今ふたたび、ぼろくそ言われたテーマについて取り組み直しはじめたところです。

これ以上の泣き言は、やるだけやって、それでもダメだったときにしようと思い、何とか浮上しはじめたのが今、そんな数ヶ月でした。

 

ということで、前置きが長くなりましたが、八丈島紀行第2弾です。この方もまた、すごいことを「ひょいっと」やっているのに何の気負いもなく、やっていることをとことん楽しんでいるところがとても気持ちいい方でした。

 

 

URUCRAFT(ウルクラフト)の、蜂須賀江理子さん。島のみんなは八丈の「はち」と引っかけて、「ハチ」という愛称で呼ぶそうなので、それにならって文中ではハチさんと呼ばせてもらいます。 

ハチさんの家のキッチン。収納用の棚など全て自作!
ハチさんの家のキッチン。収納用の棚など全て自作!

「家借りたいっていってたよね? 親戚の家があるけど、空家なの。人が住んでないから、傷んでる箇所もあるけど好きにリフォームしていいらしいっていってる。どうする?」

 

 ハチさんが友人からそんな話を聞かされたのは5年前。八丈らしい自然の中にある一軒家に住みたいと思っていたときのことだったので、「ぜひ!」と即答したのだそう。

 

「早速見にいったら、最近まで人が住んでいたとは思えないおうちで、横にあった大きなカポックという木が家より高くなっていたんですが、元気よく繁っているのでまるで木の傘の中に家がすっぽり入っているように見えました。でも、私、美術大学を出ていて、自分でものを作るのが大好き。家の改装もやってみたかったから、貸して下さいってお願いしたんですよ」。

 

 当時の写真を見せてもらうと、ほんとだ、木に抱かれたような状態になっている! 今、私がお邪魔しているハチさんと家族が暮らしている家は、空間全体がオシャレすぎて、えっ、ここ、カフェ? といいたくなるような作りなのに。

 

「当時は空港の地上係員の仕事をしていたんです。どうやってこの家を自分の好きな空間にしようかわくわくして、家事をしてから夜8時〜10時ぐらいまで通い詰めて、休日はもちろん一日中家造りしてました。

 最初は、家を包み込んでいた枝をひたすらノコギリで切って、家の形を出していったんです」。

改装前の家。カポックに覆われていた(写真提供:ハチさん)
改装前の家。カポックに覆われていた(写真提供:ハチさん)

現れたのはコンクリートブロックでできた古い作りの家。畳だった床を土台から改装しフローリングに、ふすまは取り外し木枠をつけ、壁はしっくいを塗った。これをほぼぜんぶ、ひとりでやりとげたという。

「棚とかも自分で作りましたよ。え? 大変? ぜーんぜん。楽しくて楽しくて」。

 ハチさんは笑いながら、こともなげにいう。私のような整理整頓ベタ、空間把握音痴には100年かかってもできそうもない。

 

 もとはふつうの家、しかも廃屋状態だったというのに、どうやったらこんなにオシャレになるんですか? と聞いてみると、

「そうですね……。こんな部屋にしたいっていうイメージが最初にあって、それを実現するにはどうすればいいか? って考えていくんです」

 

 と、見せてくれた図面は裏紙に書かれた手書き。寸法は書いてあるけど、とってもラフなものだ。

 リビングの棚やテレビ台や、キッチンのミニカウンターや食器棚、スパイスを置いている棚、すべて手作り。そして、そこにグラスや照明など、ハチさんが「好き」と感じたものが置かれている。キッチンなど都会のオシャレカフェみたい、いや、それよりももっと暖かみがある。「ここで暮らしている」という人の息吹が感じられる。

改装した現在の家
改装した現在の家

(左)改装中。部屋の段差や壁もコツコツと崩してならしていったんだそう。(右)現在の室内。壁の漆喰ももちろん自分で!

 ……と、家を改装した話が余りに驚きだったのでそのことから先に書いてしまったが、ハチさんの本業である「URUCRAFT(ウルクラフト)」は、ドライフラワーはじめ、さまざまな素材を使ったリースづくりからパーティ会場の飾り付け、店舗コーナーの作成、もちろん備え付け家具の製作まで、とても幅広い。たとえば「フリージア祭り」の特設カフェコーナーの制作を行ったし、結婚式のブーケや会場の装飾、ホテルの売店コーナーリニューアルなど、どれも独特の世界観とセンスに満ちている。

 

  ハチさんが八丈島に住むようになったのは6年前。きっかけは、ふらっと気ままな一人旅。生まれて初めて飛行機に乗って訪れた先が八丈島だった。旅行のつもりだったのに、泊まった宿で「受付の仕事やらない?」といわれ、島暮らしに憧れていたこともあってひょいっと移住へ。その後、空港の地上係員の仕事に移り、そこで現在の御主人と出会い結婚。

 

 一方でずっと続けていたのは、リースづくり。もともと、美大を卒業した後に軽井沢の雑貨店でリースを作って販売していたのだ。でも、今のように島のあちこちでハチさんの作品を見るようになったのは最近で、それもまた偶然からはじまった。

 

 5年前、ハチさんの友人で島外に住んでいるカメラマンを、島のホテルの社長に紹介したいという連絡が、観光協会を通じて入ってきた。

 じゃあ、私が運転手するよ。と、車に友人を載せて一緒に打合せに同行。ホテルの社長が、ん? 君は島に住んでいるの? 何やってる人? と聞いてきて、リースのことやものづくりのことなどを話した。それが今のハチさんのスタート。

 

「じゃあさ、うちのホテルのおみやげスペースをカッコ良く作りなおしたいんだけど、やってくれないかな?」

 

 その社長とは、八丈島の2つのホテルを所有し、島の活性化にも取り組んでいる歌川真哉さんだった。リードパークリゾートとリードアズーロ、島のリゾートホテル2つの売店コーナーにある木でできたシックな棚、それがハチさんのつくったものだ。

 作品はそのまま、次の仕事の呼び水になる。「あの棚、いいねー。うちの店、直したいんだけどこんなこと、できない?」「うちのここの部分もカッコ良くしたいんだけど」。いろんな相談が舞い込んでくる。

子どもたちのおもちゃや自分用の文房具も自作の棚にすっきり収まっている
子どもたちのおもちゃや自分用の文房具も自作の棚にすっきり収まっている

 地域にすんなり溶け込む方法として、島暮らしに必要な技術を持っていることは大きな強みになる。さらに、島で注目されている施設での仕事は信頼性になる。センスがよければなおのこと。

 

 とはいえ、ハチさんは仕事を取ろう! と、バリバリ営業したわけでもなんでもない。

 そもそも、ハチさんは子どもが4人いて、家族の世話も大変だ。そして、何よりもそういう“暮らし”を大切にしている。その部分に食い込むようなスタイルで仕事はしていないのだ。

 

 なんていうか、のびのびと好きなことをしている。そのことが、次の仕事の呼び水になっているんだなあと、話しているとそんな風に感じられる。

 

 島への移住者という視点でハチさんを見てみると、偏りが無いなあと思う。話していて「こんなことあったんですよ」と話題に出てくる島の人の年齢や、立場がとてもバラエティに富んでいるのだ。

 

 島に限らないけれど、才能やセンスがある移住者は、やはりその理解者と仲良くなる。同じようにセンスを持っていたり、考え方が似ていたりする人とのつきあいは、心地よいからどうしたって多くなる。でも、ハチさんはご老人から子どもまで、つきあいがとってもはばひろい。

 

 それは、木工教室やリース教室をやっていることとも大きいだろう。木工教室も、突然看板を掲げてやりますーとはじめたというより、島でいろんな取り組みをしている人びとを先生にして、島の小学校が父兄向けの教室を開いていて、そこで木工教室を担当したことがきっかけになったそうだ。

 

 小学校で教室を行った後、「木工を習いたいんだけど」と島のおばあちゃんが家までたずねてきてくれたりしたんですよ。ハチさんはそう言って楽しそうに笑う。

 

 田舎移住、島移住はいま、一部で合い言葉のようにはやっているけれど、たいてい「地元の人びとといかにつきあうか」というようなことがセットで語られている。それができないと、移住は難しいよと言うような情報だ。ハチさんも、もともとは岩手の出身なので地方での暮らしは知っていたのだけど、島へ移住すると言ったら親戚に「大変なことだよ、ポッと入っていけるもんじゃないよ」と忠告されたという。

 しかしハチさんは意図せずしてその境界線をするっと越えて、島に昔から住んでいる人とも、同じような移住者ともネットワークを築いているところがすてきだ。島の男性と結婚していることや、子どもがいることもあるだろうけれど、技術と、実績と、あとはこのほんわかした人柄が人との壁を作らないのかもしれない。

自宅の横にあるアトリエの中はリースや装飾の材料でいっぱい
自宅の横にあるアトリエの中はリースや装飾の材料でいっぱい

 実現するかしないかは別として、この先に、やってみたいこととか、夢はありますか? と聞いてみると、いっぱいあります! と、またいい笑顔でハチさんは言う。

 

 たとえば、古民家再生。八丈島には古い家がたくさんあって、それぞれの良さを活かしながらこんな風にリフォームしてみたい、ああしたらすてきになるというわくわくがいっぱいあるのだという。要望があるならどんどんやりたい、でも一人では無理だから、一緒にやり続ける仲間ができたらいいなあ。

 

 おっとりと、ニコニコしながらハチさんは言う。八丈島にはいっぱいいっぱい魅力的なものがあるんですよ。その魅力をもっと、いろんな人に知ってほしいし、そのお手伝いができたらいいな。 

 

 そう言っていたハチさんのブログを久しぶりにのぞいたら、今は海の家を作っているらしい! おまけに「無給でいいから技術を学びたい」というお弟子さんまでできたという。

 

 あれっ、仲間もできたし、ハチさん、ますます忙しくなりそう。画面の写真を見ながら、私までわくわくしてきた。不器用な私だけど、今度はリース教室に参加してみたいな。そして、またハチさんといっぱいおしゃべりしたい。

左が自宅、右がアトリエ。デッキも塀も全部ハチさん作。こんな才能がほしい!!
左が自宅、右がアトリエ。デッキも塀も全部ハチさん作。こんな才能がほしい!!